玉造 修 (たまつくり おさむ)
<詩作品>
岩井高校の夏服
一九七四年
教員一年目
六月一日
女生徒は水色の夏服
世界知らずが教壇に立って
化学を教えている
中間考査の問題作成
教科書 指導書 問題集 参考書
やさしい問題でいいんじゃないか
彼女たちは青い空
この制服を身につけて
それなのに
この制服を人に見られるのが嫌だと言った彼女
別の高校へ進みたかった
そんなことどうだっていいんだ
岩高の
すばらしい仲間が君を待っている
みかんを一緒に
彼女はつくばの研究所勤めとなり
ファラデーの故郷ロンドンへ
数か月の出張
帰国の日
私は羽田で出迎えた
お父さんとお母さんが来ていた
久しぶりの真智子さんは元気そうだった
邪魔をしてはいけないと思って私は
〈さようなら〉
ブルックボンドの紅茶をくれた
当時原田君もひそかに応援してくれた
ある先生は
〈玉造、真智子さんとつきあっているんだって〉
つくばの官舎の明かりがつくまで
駐車場で待った
部屋のドアをノックした
彼女が出てきた
一緒にみかんを食べた
ゆっくり皮をむいた
〈玉造君とは恋愛をする気持ちになれない〉
ふるえる手でハンドルを握りしめ
帰宅する道で思い出す
楽譜を追いながら
ベートーベンの第九のレコード
一緒に聞いた秋の日曜日
ああ、これが失恋
ひとりで第九を聴いた